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    <title>TAKEZOno小部屋</title>
    <description>剛蔵の空想履歴、創作小説の部屋へようこそ！！リンクはフリーです。</description>
    <link>http://takshoset2.blog.shinobi.jp/</link>
    <language>ja</language>
    <copyright>Copyright (C) NINJATOOLS ALL RIGHTS RESERVED.</copyright>

    <item>
      <title>月と君…最終話</title>
      <description>１０、３月10日、雨、所により快晴。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
３月４日、桜の木の下で僕は歌った。&lt;br /&gt;
最後の歌&amp;hellip;最高の愛のうたを、集中治療室にいる彼女に届くように僕は歌い続けた。&lt;br /&gt;
時間は覚えていない、どれだけ歌ったかなんてのも覚えていないけど&lt;br /&gt;
弦が弾けて切れた瞬間、僕はすべての終わりを感じ取った。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
そして&amp;hellip;僕は見たんだ&amp;hellip;桜の木に刻まれた相合傘を&amp;hellip;。&lt;br /&gt;
刻まれ、無くした記憶の断片が繋がり、早苗の全てを僕は知った。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「ようやく会えた&amp;hellip;そうか&amp;hellip;君だったんだね。&lt;br /&gt;
ようやく僕はたどり着いたよ&amp;hellip;ただいま&amp;hellip;早苗&amp;hellip;。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
まだ蕾を付け出したばかりの桜の木が僕の記憶の中で花を咲かせ&lt;br /&gt;
白いワンピースの女の子を暖かく見守っていた。&lt;br /&gt;
そしてその隣にはおじいちゃんから借りたステンレスのピックケースで&lt;br /&gt;
相合傘を必死に作る小さな少年が居た。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「さなえ&amp;uarr;ゆうじ」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
そしてその少女は車椅子で近づいてくるおばあさんに抱きついて&lt;br /&gt;
少年に手を振った。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「じゃあ、また明日ね！」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「うん、じゃあ、また明日！」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
覚えているのは、その後、彼女に少年は会うことはなく&lt;br /&gt;
少年のおばあさんはその日に亡くなった&amp;hellip;ということだけだ。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
彼女のおばあさんもまた、この世を去って&lt;br /&gt;
少年とはもう会えないと悟ったのだろうか？&lt;br /&gt;
少年はその後、一度だけその場所を訪れた。&lt;br /&gt;
その時に彼女はもう居なかったのだ。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
10日の雨の予報は外れ、僕は春の日差しを受けながら&lt;br /&gt;
病院へ最後の訪問を行う予定だった。&lt;br /&gt;
その前に僕は寄らなければならない場所があった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
あの道&amp;hellip;あの自動販売機&amp;hellip;そしてあの景色&amp;hellip;夕焼け&amp;hellip;。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕はただ立ち尽くしてその場所の全てを目に焼き付けた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
もう&amp;hellip;ここでは歌えない&amp;hellip;いや&amp;hellip;歌わない。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
それはここが彼女と僕の二人の場所だったから。&lt;br /&gt;
そしてあの夕焼けもこの後、昇る月も君がくれた宝物だから。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
日が沈む前に僕は何とか全てを焼き付け、病院へたどり着けた。&lt;br /&gt;
彼女と歩いた廊下&amp;hellip;一緒に泣いたベッド&amp;hellip;&lt;br /&gt;
クリスマスイルミネーションを完成させた中庭&amp;hellip;。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「そんな&amp;hellip;そんな&amp;hellip;」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
月夜に照らされていたのは、蕾を付け出た桜ではなく&lt;br /&gt;
すでに満開に咲き誇る桜の木だった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕は幻覚を見ているかのような感覚を捨て去るように桜の木に手を当てた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「幻じゃない&amp;hellip;咲いてる&amp;hellip;桜は今&amp;hellip;今咲いたよ&amp;hellip;早苗&amp;hellip;」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕はあの日、早苗が亡くなった日に溜め込んだ涙の&lt;br /&gt;
その全てをこの桜の木に捧げた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「君が咲かせたのか？僕に見せてくれたのか&amp;hellip;？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
ふとその時、早苗の病室からは裏手、桜の木の裏に何かが書かれているのが見えた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「早苗&amp;uarr;雄二」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
それがいつ書かれたものなのか、僕にはわからない。&lt;br /&gt;
僕にわかるのは誰が、どういう想いでそれを書いたか、ということだけだった&amp;hellip;。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
桜は二つの誓いをその胸に刻み花を咲かせ&lt;br /&gt;
その真上では月が、満月が僕を&amp;hellip;&lt;br /&gt;
ひとり残された僕をただ優しく照らしているだけだった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
</description> 
      <link>http://takshoset2.blog.shinobi.jp/%E6%9C%88%E3%81%A8%E5%90%9B/%E6%9C%88%E3%81%A8%E5%90%9B%E2%80%A6%E6%9C%80%E7%B5%82%E8%A9%B1</link> 
    </item>
    <item>
      <title>月と君…第9話</title>
      <description>９、２月６日、晴れ時々曇り。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
１月の終わりあたりから、早苗の体は確実にその力を失い&lt;br /&gt;
呼吸器が必要となる機会が増えた。&lt;br /&gt;
必然的に僕達は話をする状況になく&lt;br /&gt;
ただ手を握り合うことしか出来ない日が２日以上、続くこともあった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
２月に入ってから、少し落ち着いたように見えた早苗が僕に提案した。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「ねぇ&amp;hellip;歌は&amp;hellip;もう歌わないの？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕は早苗が今の状態になってから歌うことをしなくなっていた。&lt;br /&gt;
というよりギター弦の共振や歌、といった&lt;br /&gt;
音の振動が早苗の心臓に悪影響を与える恐れがある、と医師に注意されたからだ。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「ああ、あまり身体に障るといけないから。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「&amp;hellip;歌がないほうが、身体に悪い&amp;hellip;んだけどね&amp;hellip;ダメ？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕は迷った&amp;hellip;早苗がもし、明日&lt;br /&gt;
逝ってしまうことがあれば僕は最後は歌っていたい。&lt;br /&gt;
彼女の永遠の眠りを、避けられない運命の門出を&lt;br /&gt;
彼女が愛した歌で送ってあげたい。そう思っていた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
でも、それが彼女の寿命を縮めることになれば&lt;br /&gt;
僕は今後、歌うことを辞めてしまうだろう。&lt;br /&gt;
しかしそれを早苗は許してはくれないだろう。&lt;br /&gt;
僕は人生で最大の選択肢に挑戦している最中だった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「ん&amp;hellip;実は迷ってる。正直に話すから落ち着いて聞いて。&lt;br /&gt;
お医者さんからは止められてる。&lt;br /&gt;
僕が歌うことで早苗の寿命を縮めてしまう可能性があるから。&lt;br /&gt;
できるだけ興奮させるなって。&lt;br /&gt;
でも僕は早苗の命に、その希望が持てるよう歌いたいとも思ってて&amp;hellip;。&lt;br /&gt;
だから僕には決められない。早苗が決めて。歌ったほうがいい？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
早苗は複雑な表情を浮かべて、静かに言った。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「歌が無ければ&amp;hellip;出会わなかったのよ、私達&amp;hellip;&lt;br /&gt;
その大切な歌で&amp;hellip;私の命がなくなることはないの&amp;hellip;安心して歌ってほしいな。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
早苗の頬を一粒の涙が伝って、ぽたりと握った手に落ちた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「&amp;hellip;わかったよ、僕は歌う&amp;hellip;誰が反対しても&amp;hellip;僕はここで&amp;hellip;君に歌を聞かせる&amp;hellip;。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕は涙を堪えることに必死だった。僕が今、泣いてはいけない。&lt;br /&gt;
僕は笑って歌って彼女に希望を見せなければいけない。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕はいつでも笑って明るくいるべきなのだと&lt;br /&gt;
僕は自分の使命にひとつの項目を付け加える。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
命尽きる最後まで&amp;hellip;早苗を包む歌を&amp;hellip;暖かく笑顔で歌い続ける&amp;hellip;と。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
歌は人を勇気づけたり、励ましたりできると僕は思っていた。&lt;br /&gt;
でも、それは実際そういった場面で歌を歌うと違うのだ&lt;br /&gt;
ということに気付かされてしまう。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
歌は人を勇気付ける&amp;hellip;のではなく&lt;br /&gt;
歌を歌う人とその歌を聞く人との間に生まれる何か&amp;hellip;&lt;br /&gt;
心が共鳴し繋がる部分が、聞き手だけでなく歌い手も包んでいく。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
その間には希望も絶望もなく、弱者も強者もなく&lt;br /&gt;
ただそこで歌で繋がっている、という感覚。&lt;br /&gt;
それがその人の今、足りないものに変わるだけなのだ、と&lt;br /&gt;
僕は今は確信を持って言える。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
君が教えてくれたこと&amp;hellip;君が君の命で教えてくれたことは&amp;hellip;&lt;br /&gt;
僕の中で永遠に生きているよ&amp;hellip;。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕は歌い続けた&amp;hellip;君の命を消さないように&amp;hellip;と。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕は歌い続けた&amp;hellip;。あの日を迎えても僕は歌い続けたよ&amp;hellip;早苗&amp;hellip;。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　　生まれ変わっても&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
誰かの何かの意見を　自分の心に投げてみる&lt;br /&gt;
きっとそのまま受け入れて　一番だと思う人も居る&lt;br /&gt;
誰かの何かの思想に　自分の思想を重ねてみる&lt;br /&gt;
きっとそのまま寄り添って　叶えたいと願う人も居る&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
生まれ変わっても君に会いたい&lt;br /&gt;
死んでしまっても次があるよって　でもそんなこと信じていいの？&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
生まれ変わったら別の人でもいいかと　思えるくらいに君と生きてみたい&lt;br /&gt;
きっとこの世が終わるとき　あれやこれやと後悔するけど&lt;br /&gt;
生まれ変わったら別の人でもいいかと　思えるくらいに君と生きてみたい&lt;br /&gt;
きっとこの世が終わるとき　きっと笑顔で瞳閉じれるさ&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
また会いたいって&lt;br /&gt;
その時、本当に言えそうな気がするんだ&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
生まれ変わったら別の人でもいいかと　思えるくらいに君と生きてみたい&lt;br /&gt;
きっと人生振り返って　あれやこれやと矛盾抱えるけど&lt;br /&gt;
生まれ変わったら別の人でもいいかと　思えるくらいに君と生きてみたい&lt;br /&gt;
きっとこの世が終わるとき　あれやこれやと後悔するけど&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
また会いたいって&lt;br /&gt;
その時、無駄なく言えそうな気がするんだ&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
また会いたいって&lt;br /&gt;
その時、心から言えそうな気がするんだ&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
君に。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
</description> 
      <link>http://takshoset2.blog.shinobi.jp/%E6%9C%88%E3%81%A8%E5%90%9B/%E6%9C%88%E3%81%A8%E5%90%9B%E2%80%A6%E7%AC%AC9%E8%A9%B1</link> 
    </item>
    <item>
      <title>月と君…第8話</title>
      <description>８、１月１日、雪。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕は大晦日に願った&amp;hellip;。もう一年&amp;hellip;いや、半年。&lt;br /&gt;
彼女と出会ったあの季節まで彼女がその命を輝かせてくれるように&amp;hellip;と。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
１月１日、元旦。早苗は正月を病院で過ごした。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
経過は安定していると担当医師は言っていたが、僕は不安だった。&lt;br /&gt;
確かに医師の言うように、呼吸器を必要とするのは少し動いた後だけで&lt;br /&gt;
普段は呼吸器なしでもなんとか生活できる状態。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
しかし、最近の早苗はずっと外を見て悲しそうな顔をしている。&lt;br /&gt;
僕には踏み込めない何かがある、それは感じている。&lt;br /&gt;
だけど、そこに踏み込んでいかなければいけない時期でもあった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
時間がない&amp;hellip;僕は焦っていた&amp;hellip;。僕は早苗の手を握りながらそっと聞いてみた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「最近、何だか外ばかり見てるね。何かあったの？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「桜の木&amp;hellip;」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「え？桜の木？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「うん、桜の木」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「それがどうしたの？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「&amp;hellip;あの桜の木が花びらで一杯になること、見たいなぁって。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕は少し気になった。いつもの癖が出たからだ。でもいつもと違う。&lt;br /&gt;
ただ頑固な癖ではなく憂いを秘めた&amp;hellip;とでも言えばいいだろうか？&lt;br /&gt;
言いたいけど言えない、そんな感じがした。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕は早苗の決意を尊重した。苦渋の決断だった。&lt;br /&gt;
今、聞かなければもう聞くことはできない。&lt;br /&gt;
僕は、僕が今聞いた、という事実が&lt;br /&gt;
彼女に何かの変化を与えるのであればそれでいい、と思うようにした。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「そうだね、電飾で着飾った桜の木も良かったけど&lt;br /&gt;
やっぱ桜には桃色の花びら、だよね。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「うん、早くみたいな。満開の桜の木。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「じゃあ、春になったら一緒にあの木の下で花見をしよう。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕はその約束が彼女をまた別の季節に連れて行ってくれることを願った。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
そしてその季節が来たらまた別の季節へ約束をする。&lt;br /&gt;
そうして僕達は一生同じ時を生きてゆければ&amp;hellip;そう願った。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「そうね&amp;hellip;生きていれば、そうしたいね。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「何言ってんだよ、約束は守るもの、そうでしょ？じゃあ&amp;hellip;はい！」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕は早苗にそう言って、小指を突き出した。&lt;br /&gt;
ああ、と早苗も同じように小指を差し出す。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「ゆ～びき～り、げ～んま～ん、う～そつ～いた～ら&amp;hellip;&amp;hellip;&amp;hellip;」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕はストップを左手で合図した。早苗の不思議がる顔もまた可愛かった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「早苗、何にしよっか？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「え？何が？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「普通だと面白くないでしょ？針千本飲～ます、じゃあ面白くないでしょ？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
早苗の顔が少し明るくなった。僕はそれが嬉しかった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「う～ん、じゃあ&amp;hellip;そうだな～、お姫様だっこで花見&amp;hellip;にしよっかな。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「それじゃあ、どっちにしろ花見になるじゃん。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
早苗はフフっと笑うだけだった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「ああ&amp;hellip;ああ、それでいいよ、僕も言ってみたものの良いの浮かばなかったし。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
じゃあ、と二人で呼吸を合わせた。彼女の呼吸に僕の呼吸を重ねる。&lt;br /&gt;
それは同じ時間を生きていてもなかなか起こらないことだった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「ゆ～びき～り、げ～んま～ん、う～そつ～いた～ら&lt;br /&gt;
お姫様だっこ～では～なみ！！指切った！」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
フフフ、と二人で笑った。&lt;br /&gt;
あはは、と笑えた日々を懐かしく思いつつ&lt;br /&gt;
僕達は久しぶりに同じ笑顔で&amp;hellip;同じ時間を&amp;hellip;同じ呼吸で過ごした。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
思い出というものは、失った時初めてその効果を発揮する。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
無くなったもの、すでに置いてきてしまったもの&amp;hellip;失ったもの。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
思い出を投影するには、振り返る、ということが必要であり&lt;br /&gt;
僕は今後、その苦しさに耐えることができるのだろうか&amp;hellip;。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
</description> 
      <link>http://takshoset2.blog.shinobi.jp/%E6%9C%88%E3%81%A8%E5%90%9B/%E6%9C%88%E3%81%A8%E5%90%9B%E2%80%A6%E7%AC%AC8%E8%A9%B1</link> 
    </item>
    <item>
      <title>月と君…第7話</title>
      <description>７、１２月２４日、雪&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
早苗の病状はこの１ヶ月、安定しつつも徐々に進行を始めていた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
最初は特に問題なかった。&lt;br /&gt;
ところが、３週間も経つとその状態があらわになる。&lt;br /&gt;
少し歩くと息が切れ、自分ひとりでは歩くのが辛くなった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「ほんっとに&amp;hellip;やわな身体に&amp;hellip;育ったもの&amp;hellip;ね。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
と、最初は皮肉って笑ったけど、12月の中頃から、その笑顔にも陰りが見え始めた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
10日前、僕は決意した。早苗に最高のクリスマスプレゼントを用意しよう。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
来年はないかも知れない。そう思って医師に相談した。&lt;br /&gt;
医師は彼女の病状を案じ乗り気ではなかったけれど&lt;br /&gt;
周りの看護師さんがかなり乗り気で僕の意見を医院長に通してくれた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&amp;hellip;そして今日、早苗に内緒でそのプレゼント大作戦が始まる&amp;hellip;。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「じゃあ、準備はいいですね。&lt;br /&gt;
あれも、これも揃ったし&amp;hellip;周りも準備ＯＫかな？&lt;br /&gt;
後はやるだけか&amp;hellip;。うまくいくかな？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕は早苗のお父さんに目で合図を送った。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「そうだね、じゃあ、私は病室で合図を待つよ。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕は早苗の部屋のカーテンが閉まるのを待っていた。&lt;br /&gt;
カーテンが閉まったのはそれからすぐ後のことだった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「（さぁ、始めましょうか！！）」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕は皆に合図を送った。勿論、早苗の病室には届かないくらいの声で。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
どれだけ時間が経っただろう。準備は無事、終了した。&lt;br /&gt;
そして僕は早苗の病室でその時を今か今かと待った。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「ふたりとも、何をそわそわしてるの？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
見るに見かねて早苗が話しかけてきた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「いやぁ、別にぃー。今日は冷えるねぇー。雪も降っているようだし。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「ほんとに？雪が降ってるならなんでカーテン閉めてるの？私、雪が見たい。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
お父さんと僕は同時に時計を見た。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「きた！」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
二人同時に呟いていた&amp;hellip;。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
12月24日、夜７時。外は雪。ホワイトクリスマス・イヴ。&lt;br /&gt;
人生で一番の思い出と温かな涙を心に刻む日。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
時間と共に、二人でカーテンを開けた。窓を少し開け、僕は叫ぶ。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「オッケーですよ～！！やちゃって下さーい！！！」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
ぱっと中庭に明かりが灯り&lt;br /&gt;
あの桜の木のすぐ側の小さな針葉樹を中心に&lt;br /&gt;
ライトアップされたイルミネーションがキラキラと輝きを放った。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
降る雪がまたその輝きに色を添え、中庭が別世界に姿を変えた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
あのおじいさんも渡り廊下で見ていた。&lt;br /&gt;
桜の木にも少し電飾を施していたので、それが嬉しかったのか&lt;br /&gt;
あのおじいさんの顔も少しほころんで見えた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「もみの木は用意出来なかったけど、あの桜の木があって助かったよ。&lt;br /&gt;
ちょっと雰囲気は違うかも知れないけど、メリークリスマス、早苗。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕はそういって早苗の表情を伺った。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「&amp;hellip;これって&amp;hellip;何？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
早苗の頬を大粒の涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。&lt;br /&gt;
暖かく命に溢れた涙だった。&lt;br /&gt;
僕は涙を堪えながら早苗の肩を抱くようにして言った。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「&amp;hellip;泣くなよ、また発作が&amp;hellip;起きたら&amp;hellip;どうするん&amp;hellip;だよ&amp;hellip;」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「だって&amp;hellip;だっ&amp;hellip;て&amp;hellip;」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕は早苗の肩を抱き、早苗の父さんは早苗の母さんを抱き&lt;br /&gt;
渡り廊下では僕の父さんが母さんを抱き、皆同じ感触の涙を流した。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「来年も&amp;hellip;こうして祝ってやるからな。来年もこうして&amp;hellip;」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
触れた肌や髪の感触は上書きされていく。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
その涙もまた上書きされていく。&lt;br /&gt;
それに気付いてからでは遅い。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
そう&amp;hellip;わかっている。&lt;br /&gt;
でも今はこれでいい。今はこれでいいのだと、そう心から思えた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
そんな一日だった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
</description> 
      <link>http://takshoset2.blog.shinobi.jp/%E6%9C%88%E3%81%A8%E5%90%9B/%E6%9C%88%E3%81%A8%E5%90%9B%E2%80%A6%E7%AC%AC7%E8%A9%B1</link> 
    </item>
    <item>
      <title>月と君…第6話</title>
      <description>６、１１月７日、雨。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
あの日から、僕は言われた通り、誓った通り&lt;br /&gt;
毎日早苗に会いに行った。バイトも辞めた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
彼女は最初嫌がったけど、徐々に「言っても無駄だ」と思ったらしく&lt;br /&gt;
前と同じかそれ以上に僕に沢山、話をするようになった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕は婚約の証に指輪をプレゼントした。&lt;br /&gt;
と言ってもサラリーマンの給料、３ヶ月分&lt;br /&gt;
みたいな凄いやつではなく、僕が高校を卒業した時から愛用していたものだった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
婚約した証をその手にしてくれたのは、11月に入ってからだったけど&lt;br /&gt;
捨てずに持っていてくれたことに僕は内心ほっとした。&lt;br /&gt;
そして、その指輪のサイズが僕の小指＝早苗の薬指だったことも嬉しかった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕は幸せだった。&lt;br /&gt;
タイムリミットの確実に存在する幸せであることに気付いていれば&lt;br /&gt;
もっといい一日を過ごせたかも知れない。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「あのね&amp;hellip;あの車椅子のおじいさん、知ってる？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕は早苗に聞いてみた。早苗は何か知っているかもしれない。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「さぁ、いつも昼前になると渡り廊下から&lt;br /&gt;
あの桜の木を見てるってことくらいかな？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「そうなんだ&amp;hellip;あのおじいさん&lt;br /&gt;
僕らのこと知ってるみたいなんだ。すごく昔から。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「ふ～ん、そう？&amp;hellip;私は知らないなぁ」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
早苗は興味なさそうに、そっぽを向いた。&lt;br /&gt;
僕は早苗の態度が気になった。&lt;br /&gt;
早苗の仕草をこの１ヶ月、丁寧に見てきた成果だった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
いつも早苗は聞かれたくないことに話しがいくと話の途中でそっぽを向く。&lt;br /&gt;
しかし、それがわかったとしても、それ以上、問い詰めることは出来ない。&lt;br /&gt;
なぜなら彼女は僕以上に頑固で芯が強く&lt;br /&gt;
そうと決めたらどうやってもそうする性格らしい。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「そうか&amp;hellip;知らないんだ。じゃあ、しょうがないね。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
芯ある性格というやつには負ける。僕はこれ以上の追及を断念した。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「今日はやけに素直じゃない？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「そう？いつもと同じだと思うけど？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「そうかな～、知りたい！知りたくてしょうがない！って、顔に書いてあるよ。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「でも、知らないんでしょ？じゃあ、仕方ないじゃない」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕もそこそこ頑固らしい。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「それもそうね&amp;hellip;」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
早苗はそう言って少し複雑な表情をした。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕は頭の中で&amp;hellip;気になることリストの上位に&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
車椅子のおじいさん&amp;hellip;&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
と書き込んでおいた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「やあ、雄二くん、おはよう。早苗もおはよう。調子はどう？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
早苗のおとうさんが仕事の休み時間を使ってやってきた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「お父さん？順番が違うんじゃない？&lt;br /&gt;
早苗&amp;rarr;雄二でしょ？さ・な・え&amp;rarr;ゆ・う・じ。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
早苗は指を交互に指してお父さんにお説教を始めた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「まあまあ、いいじゃん、順番なんてさ。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕はとりあえず割って入った。これがいつものパターンだった。&lt;br /&gt;
早苗のお父さんはお父さんなりに空気を察してやっていること&lt;br /&gt;
というのが僕にはわかっていたから。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「何いってんの？私が病人で、お父さんはお見舞いに来てるのよ？&lt;br /&gt;
私が先でないとおかしいじゃない。&lt;br /&gt;
今度来る時は雄二をベッドに寝かせてみようっと。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
早苗はいつものように、お説教を止めるつもりはない&lt;br /&gt;
と言わんばかりに捲くし立てた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「ごめん、ごめん。でも来客は大事にしないと、ね。調子はどう？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「&amp;hellip;今ので興奮して&amp;hellip;ちょっと&amp;hellip;息ぐ&amp;hellip;る&amp;hellip;しい&amp;hellip;じゃない&amp;hellip;の&amp;hellip;。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「&amp;hellip;早苗？&amp;hellip;大丈夫？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕はどうしていいかわからなくなった。&lt;br /&gt;
目の前が真っ白になっていく感覚を必死で堪えて早苗の手を握った。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「早く！お医者さんを！！」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
早苗のお父さんがナースコールを押してくれた。&lt;br /&gt;
僕は何も出来ずにただ、早苗の手を握っていた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
早苗に呼吸器が付けられ、病室に戻ってくるまで、半日が経った。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕にとっては半日どころの騒ぎではなく、一日、二日くらいの遠い時間に思えた。&lt;br /&gt;
いつ握っていた早苗の手を離したのか、僕には記憶がない。&lt;br /&gt;
僕自身も気を失っていたようだった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「早苗&amp;hellip;大丈夫&amp;hellip;早苗はまだ生きてるよ&amp;hellip;大丈夫だ」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕は精一杯の声を掛けた。「大丈夫？」とは聞けなかった。&lt;br /&gt;
それは彼女を苦しめる言葉だ。&lt;br /&gt;
彼女を縛ってしまう言葉を僕は必死に頭の中でリスト化していった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「うん&amp;hellip;」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
呼吸器越しに早苗の声が聞こえた。&lt;br /&gt;
僕はその声を忘れないように全神経を集中した。&lt;br /&gt;
早苗の唇の動き、目の動き、鼓動、手のひらの温もり&lt;br /&gt;
髪の匂い全てを僕は刻むように僕は早苗を見つめた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「後は私達に任せて、君も少し休みなさい。少し休めば彼女も元気になるから、ね。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
医師の誘導で僕は渋々、病室を出た。&lt;br /&gt;
早苗の両親は外で泣いていた。&lt;br /&gt;
早苗に気付かれないように外で泣いていた。&lt;br /&gt;
とうとう先が、終着駅が見えてきてしまった、と。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
そういって泣いているように僕には見えた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕はそのまま、病棟の外へ出た。&lt;br /&gt;
外はすでに暗くなり、冬の寒さを感じるまでになっていた。&lt;br /&gt;
ちょっと前まで夏だった季節は移ろいで、早くも冬が訪れる。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「もう後はないぞ&amp;hellip;」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
そう呟くように見えた冬空に浮かぶ月は&lt;br /&gt;
僕の未来を照らしてはくれそうになかった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
</description> 
      <link>http://takshoset2.blog.shinobi.jp/%E6%9C%88%E3%81%A8%E5%90%9B/%E6%9C%88%E3%81%A8%E5%90%9B%E2%80%A6%E7%AC%AC6%E8%A9%B1</link> 
    </item>
    <item>
      <title>月と君…第5話</title>
      <description>５、10月10日、晴れ時々雨。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
空は秋雨前線を掻い潜り晴れ渡る。&lt;br /&gt;
そしてその夜はこの世のすべてを包むように&lt;br /&gt;
月がその暗闇を照らし、安心と高揚をもたらす。そのはずだった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
その日は月イチ恒例の家族会議&amp;hellip;という名の外食だった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
行った店はいつもと違う洋食屋さんだった。&lt;br /&gt;
ちいさな頃、３世代で行ったらしいことは父から聞いていたが&lt;br /&gt;
僕には始めての場所にしか思えなかった。&lt;br /&gt;
なぜか今日は母さんの体調が悪いということで親子二人での食事になった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
ひと通り食事を終えた。僕は気になっていることがあった。&lt;br /&gt;
父はいつもと違い、落ち着きがないのだ。&lt;br /&gt;
食事中もなんだか上の空な感じで僕の話を聞きそびれる場面が何度もあった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「父さん。何かあったの？なんだか落ち着かないみたいだ。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「今日はお前に話がある&amp;hellip;大事な話だ。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
父は真剣そのものだった。今までに見たことのない顔をして僕を見ていた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「何なの？改まって&amp;hellip;」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「まぁ、聞きなさい。早苗さんのことだ。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕は心が定まらなかった。父や母には話していない&lt;br /&gt;
早苗の話がなぜ&amp;hellip;なぜ父から出るのか、僕にはわからなかった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「なんで知ってるの？なんで&amp;hellip;？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「お前が何をしているかなんてのはな、親子ならなんとなくわかるもんなんだよ。&lt;br /&gt;
それに早苗さんのご両親から連絡を頂いた。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕から口止めをしたわけでもなく&lt;br /&gt;
ここ１ヶ月以上もの間、病院に出入りしていれば&lt;br /&gt;
どこから話がもれていってもおかしくはなかった。&lt;br /&gt;
おじいちゃんの件もある。でも両親は関係ないし、それに意味を感じていなかった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「父さんや母さんには話す必要がないと思ったから。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「冷静に聞いて欲しい。&lt;br /&gt;
早苗さんのご両親からもう会わないでくれと伝言を頼まれた。昨日の事だ。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
目の前が色を失っていくようだった。&lt;br /&gt;
なぜ？どうして？あんなに喜んでいたのに。&lt;br /&gt;
なぜ？どうして&amp;hellip;それを何度も繰り返した&amp;hellip;納得いかない、意味がわからない。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「なんで！？何か嫌われるようなことでもした？なんか迷惑でもかけた？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「だから冷静に聞けと言っている。&lt;br /&gt;
父さんが責任を持って、一言一句間違えずに伝えるからよく聞け。&lt;br /&gt;
それを言い出したのは、早苗さんだ。よく聞け&amp;hellip;いいな。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
『これ以上、近くに居て私を忘れられなくなったら&lt;br /&gt;
私は雄二の人生の足かせになってしまう。&lt;br /&gt;
雄二は私ひとりの為じゃなく、もっと沢山の人の為に歌うべき。&lt;br /&gt;
もうこれ以上、未来のない私に付き合ってはいけない。』&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「そんなの勝手だよ&amp;hellip;。僕は本気なんだ！父さん！僕は本気なのに&amp;hellip;」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「わかっている。お前が冗談半分でこんなことをするはずがないことは&lt;br /&gt;
父さんや母さんが一番知っている。&lt;br /&gt;
&amp;hellip;それでだ、父さんもこんな話は受け入れたくなかった。&lt;br /&gt;
だから。実は早苗さんのご両親と話しあって、ひとつ提案があった。&lt;br /&gt;
これは大事な話だ。お前にほんの少しでも迷いがあったのなら&lt;br /&gt;
父さんはこれ以上話さない。聞きたいか？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕に迷いはなかった。僕の心の中の景色は、今日の空のように雲ひとつなく、早苗だけがそこにいた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「聞かせて、父さん。僕は聞きたい。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「じゃあ、言うぞ。早苗さんがどれだけ嫌がっても&lt;br /&gt;
お前は毎日、早苗さんに会いにいけ。&lt;br /&gt;
嫌いと言われても会いに行け。&lt;br /&gt;
そして、これは父さんからの提案だ。早苗さんと婚約をしろ。&lt;br /&gt;
そして&amp;hellip;最後を&amp;hellip;&amp;hellip;彼女の命の証人になってやれ&amp;hellip;いいな？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「&amp;hellip;わかったよ。父さん、僕は早苗に嫌われたって、最期まで愛してみせる。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
その後、父さんは始めてと言っていいくらい、僕に愛や恋について熱く語った。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
そして店を出た。外は雨が降っていた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
雨は大粒のにわか雨。&lt;br /&gt;
雨雲の隙間から照る月は煌々と僕らを照らし、何かを語っているようだった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
</description> 
      <link>http://takshoset2.blog.shinobi.jp/%E6%9C%88%E3%81%A8%E5%90%9B/%E6%9C%88%E3%81%A8%E5%90%9B%E2%80%A6%E7%AC%AC5%E8%A9%B1</link> 
    </item>
    <item>
      <title>月と君…第4話</title>
      <description>４、９月１日、曇りのち晴れ。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
病室が個室であったこと&lt;br /&gt;
担当の医師や看護士さんが協力的だったことが幸いし&lt;br /&gt;
僕は週に１回の約束で早苗の病室で歌うこととなった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
用意した小道具はミニアコースティックギター・１本。&lt;br /&gt;
サイレンサーを付けて音漏れを少なくした。&lt;br /&gt;
元々、派手にかき鳴らす曲がなかったのも良かったと言えるのだけど。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
いつものように彼女の病室に向かっていた時のことだった。&lt;br /&gt;
僕は渡り廊下から見えるあの景色、中庭のあの景色がずっと気になっていた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕はここにきたことがある。僕はここで何をしていたのか&amp;hellip;思い出せないでいた。&lt;br /&gt;
遠く幼い記憶の一部に刷り込まれた景色。そんな印象だった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
渡り廊下を渡りきった時、車椅子の老人が話しかけてきた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「そこの若いの、ちょっといいかな？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「あ、はい。僕に何か？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「君は昔、ここにきたことがあるはずなんだが。それを覚えているのかな？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「え？僕が&amp;hellip;ですか？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「多分だけど、君にはおじいさんがいただろう？名はなんといったか&amp;hellip;」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「うちのじいさんの名は一幸ですが、お知り合いですか？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「ああ、やっぱりそうか。カズさんのお孫さんだ。&lt;br /&gt;
小さかったあの子が大きくなって、また楽器を担いでここにくるとは&lt;br /&gt;
なんとも因果なことだ&amp;hellip;」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「僕をご存知で？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「ああ、君はよくカズさんとここに来ていたよ。覚えていないのかな？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「ああ、なんとなく。&lt;br /&gt;
始めてじゃないような気はしていたんですが&amp;hellip;やっぱり来てたのかな？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「じゃあ、あの子のことも覚えていない、と？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「あの子？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「君がよく見舞いに行っている、あの子だよ」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「え？意味が良くわからないんですけど&amp;hellip;」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「そうか&amp;hellip;なんとも偶然とは恐ろしいもんだ&amp;hellip;」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「何があったんですか？僕は昔ここにきて&amp;hellip;。でもなぜそれをあなたが？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「これ以上はカズさんの遺言、私とカズさんとの間での約束でな。&lt;br /&gt;
言えないことになっているんだ、すまない。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「そうなんですか&amp;hellip;じゃあ、これだけは答えてもらえますか？&lt;br /&gt;
僕と彼女は昔、ここで会ってるんですね？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「ああ、会っているよ。それはわしも見ているから。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
少し寂しい目をしていた。&lt;br /&gt;
そこには多分、踏み込んではいけない何かがあるのだろう。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「じゃあ、僕は行きます。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「そうだな、早く行ってあげるといい。君をずっと待っていたのだから。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
これ以上は、今、聞いてはいけない気がして、僕は老人と別れた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕はおじいちゃんとここに来て、そして君と出会い、何か約束をした。&lt;br /&gt;
そして僕はそれを忘れつつ、また君と出会った&amp;hellip;あの場所で。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
それがどういうものなのか、今はわからない。&lt;br /&gt;
今は君と向き合う、それ以外は考えないことにしよう&amp;hellip;&lt;br /&gt;
そう心に決めて、僕は病室へ急いだ。君に希望を見せる為に&amp;hellip;。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
運命は輪廻する。そしてまた悲しい歌を聞かせる。&lt;br /&gt;
でも、流れには逆らえない。その流れに君が飲まれるまで、僕は歌おう。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
それが遠い昔、あの日から約束されていたことだとは知らずに&lt;br /&gt;
僕は君に歌を聞かせる。約束&amp;hellip;遠い、悲しい約束。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
ここまで記憶を呼び覚ましておいて&lt;br /&gt;
あの時、それに気付けなかった僕は&amp;hellip;多分、一生幸せにはなれないだろう。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
でも、最後の最後になってしまったけど、僕は思い出せて良かったと思う。&lt;br /&gt;
出来ればこの時に、思い出しておきたかった気持ちはあるけれど。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
</description> 
      <link>http://takshoset2.blog.shinobi.jp/%E6%9C%88%E3%81%A8%E5%90%9B/%E6%9C%88%E3%81%A8%E5%90%9B%E3%83%BB%E3%83%BB%E3%83%BB%E7%AC%AC4%E8%A9%B1</link> 
    </item>
    <item>
      <title>月と君…第3話</title>
      <description>３、８月７日、晴れ。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
言葉というものは時として人を縛ってしまう。&lt;br /&gt;
しかし言葉というものは時として自分を思い出すきっかけになるもの。&lt;br /&gt;
僕は自分の語った言葉に責任が持てるのだろうか？&lt;br /&gt;
あの日の約束は今も僕の中で生きていて&lt;br /&gt;
君を&amp;hellip;そして僕を&amp;hellip;縛って離すことをしない。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
はじめ総合病院は隣町、駅から徒歩10分のところにある。&lt;br /&gt;
近隣では一番大きな病院だ。&lt;br /&gt;
早苗は個室になんとか入れたようだが&lt;br /&gt;
ロビーや廊下は外来患者も多く、人の多さが僕の心を少し紛らわせた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
懐かしい&amp;hellip;？何だろう&amp;hellip;？この感覚は&amp;hellip;&lt;br /&gt;
デジャヴというやつは何度となく感じるけど&lt;br /&gt;
すべて錯覚で、すぐに忘れ去ってしまうものだけど&lt;br /&gt;
今回のはそれと違う空気感を僕に与え、何かを思い出せと訴えているように思えた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&amp;hellip;それより早苗だ&amp;hellip;と不思議な感覚を意識の外に、僕は病室の扉をノックした。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「どうぞ。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
甲高い女性の声がした。彼女ではない、勿論、昨日会ったお父さんでもない声だ。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「失礼します。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「&amp;hellip;ああ、お父さんから伺ってます。早苗の母です。雄二くんよね？&lt;br /&gt;
ごめんなさいね、今、診察に行ってるんだけど、少し遅れてて。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
早苗に似て&amp;hellip;というのは失礼だけど、よく似ている。&lt;br /&gt;
早苗のしなやかな雰囲気は母親譲り、といったところだ。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「はじめまして、梶原雄二です。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
病室には作りかけの千羽鶴、お決まりの果物&lt;br /&gt;
夏の昼下がりの陽気に照らされた小さな向日葵が花瓶で首を垂れていた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&amp;hellip;&amp;hellip;まただ&amp;hellip;何か見覚えがある&amp;hellip;でも&amp;hellip;思い出せない？何なんだ？この感覚は&amp;hellip;。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
作りかけ&amp;hellip;？僕はそれを凝視してしまった&amp;hellip;。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「可笑しいでしょう？あの子、自分で作ってるの、千羽鶴。&lt;br /&gt;
個室は暇だって。大部屋ならお友達が出来たかもしれないのにって言ってね。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「ああ、そうだったんですか、彼女らしい&amp;hellip;ですね。自分で作っちゃうなんて」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
少しの影が見えた&amp;hellip;。深く悲しい心の影&amp;hellip;。少し涙ぐんでいるようにも見えた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「元気に振舞っているように見えて、実は怖いんだと思うの&amp;hellip;。&lt;br /&gt;
明日なんてないかもしれない&amp;hellip;今、何かやっておかないと不安なんだと思うの&amp;hellip;。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「そうですよね&amp;hellip;今日が、今が彼女のすべて&amp;hellip;ですもんね。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕はわかったような口をきいた。&lt;br /&gt;
それが産みの親にとって、どれだけ辛く悲しく怖いものかなんて&lt;br /&gt;
対して理解していなかったというのに&amp;hellip;。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「そろそろ帰ってくると思うわ。雄二くん、少し留守番頼める？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「え？ああ、いいですよ、今日は出来るだけ長く居るつもりですから。&lt;br /&gt;
バイトも休んできました。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「そうだったの&amp;hellip;じゃあ、少しお願いね。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「はい、わかりました。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
少しほっとした気分だった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
今、彼女がどういった状態なのか？&lt;br /&gt;
それを聞いてしまってから会うのと、そうでないのとでは&lt;br /&gt;
感覚も話し方も今までとまったく同じ、とはいかない。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
すでに同じように話す自信は僕にはなかったし、できれば今まで通り&lt;br /&gt;
ここが病室であること以外は路上のまま、彼女と接したかった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
外を見た&amp;hellip;。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
中庭の草木は夏の暑さにも負けず、悠々とその存在感を示し&lt;br /&gt;
そして周りで同じく床に伏せる人々を励ましているのだろう。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕もあの太陽の下、輝くように、彼女に勇気を与えなくては&amp;hellip;。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「&amp;hellip;やっぱり&amp;hellip;来ちゃったんだ&amp;hellip;」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
そんな僕の思いを、その一言がさらっていく。&lt;br /&gt;
彼女は点滴を片手にゆっくりと病室に入ってきて、僕にそう言った。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「うん、昨日、お父さんから聞いたよ。身体、大丈夫？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
駄目だ&amp;hellip;これじゃあ駄目だ&amp;hellip;こんな会話を用意していたんじゃない&amp;hellip;。&lt;br /&gt;
彼女を勇気付ける為に、今日、ここに来たのに、これじゃあ駄目だ。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「うん、見ての通り大丈夫だけど、点滴は外しちゃ駄目みたい。&lt;br /&gt;
診察室って結構遠いの。ちょっと疲れちゃった&amp;hellip;。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
と、早苗はいつもと同じ、といった顔をしてベッドに腰掛けた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&amp;hellip;&amp;hellip;少しの沈黙&amp;hellip;&amp;hellip;&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
いつもと違う場所での再会に、お互い何を話していいものか、悩んでいたのだろう。&lt;br /&gt;
同時に外を見た。僕は外の何を見ていればいいのかわからず&lt;br /&gt;
ただ夏の暑さを隔てる一枚のガラスに反射する自分を見つめていた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
あの時、向こうに彼女は何を見たのだろうか？&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
悠々と色づく草木や一番大きく輝いていた葉桜だったのだろうか？&lt;br /&gt;
それとも反射する僕の暗い顔だったのだろうか？&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
そして何を思ったのだろうか&amp;hellip;。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「がっかりした？こんな病弱な女の子で&amp;hellip;。正直、がっかりしたでしょ？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「そんなことないよ、もっと早く話してくれれば良かったのに。そうすれば&amp;hellip;」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「いつものようにあそこで歌ってくれた？&lt;br /&gt;
それとも私の家の前で、部屋で歌ってくれた？&lt;br /&gt;
あなたは優しいから、『家に帰れ！』って言ったと思うよ、きっと。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「ああ、考えたと思うし、多分、そう言ったと思う。&lt;br /&gt;
生きていれば、どうにでもなる。生きていればね。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「&amp;hellip;私は怖かったの&amp;hellip;あなたが歌うことをやめて&lt;br /&gt;
私のところに来るのが怖かったの&amp;hellip;。&lt;br /&gt;
病気は私から歌や沢山のものを奪った。&lt;br /&gt;
歌うこと、走ること、外でいろんなものを見ること、感じること。&lt;br /&gt;
友達、将来の夢、恋愛。すべて奪っていった。&lt;br /&gt;
奪われる辛さを知っている私が&amp;hellip;&amp;hellip;今度は私があなたの歌を奪うの&amp;hellip;。&lt;br /&gt;
あなたの優しい歌を奪ってしまう。&lt;br /&gt;
そんなの&amp;hellip;そんなの、耐えられるわけないじゃない&amp;hellip;。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
考えていたことだった。&lt;br /&gt;
早苗の為に歌うのか、それとも歌を捨て&lt;br /&gt;
早苗とずっと一緒にいるのか、僕は今、ここで答えが出た気がした。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
君の為に歌うんだ。それが今、君だけでなく&lt;br /&gt;
僕にも必要なものなのだと、そう思ったんだ。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「大丈夫&amp;hellip;、これからはここで君の為に、何度でも歌ってあげる。&lt;br /&gt;
道具は少し揃えないといけないけどね。まぁ、任せといて。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕はここで固まった決心を口にした。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「君が好きだ。&lt;br /&gt;
今、世界で一番、早苗が好きだ、大切なんだ。&lt;br /&gt;
だからそうさせて&amp;hellip;ね？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
早苗の瞳から、小さなシズクが垂れ下がった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
暖かさと悲しさと切なさと&amp;hellip;そして喜びの詰まった涙。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕の瞳からは、今までの早苗の葛藤を祝福する涙。&lt;br /&gt;
二人の涙が重なって、あの歌が生まれて&lt;br /&gt;
そしてまた別の涙があの歌を高い頂に押し上げていく。&lt;br /&gt;
僕は早苗の真っ白な手を握り&lt;br /&gt;
お母さんが帰ってくるまで、二人で絶え間なく泣いた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
それが偽善なのか、愛なのか。僕は分からぬままに。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
でも&amp;hellip;それを信じるほか無かったんだ&amp;hellip;。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
君を想う&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
今、願うこと　君を想うこと&lt;br /&gt;
夢、儚いけど　君を想うこと&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
空は光を増し　夢は影を増し&lt;br /&gt;
そこで愛を語る　無償の愛を語る&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
重ねた両手は想いも重ねて&lt;br /&gt;
未来を重ねて僕を君を涙で包んだ&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
未来が僕に絶望を告げても&lt;br /&gt;
僕が歌う限り道は繋がってく&lt;br /&gt;
未来が僕に悲しみを運んでも&lt;br /&gt;
僕が歌う限り夢は溢れてくる&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
君が泣いたあの日に&lt;br /&gt;
僕が泣いたあの日に&lt;br /&gt;
はじけて混ざった未来は&lt;br /&gt;
いつでもいつまでも色褪せない&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
未来が僕に絶望を告げても&lt;br /&gt;
僕が歌う限り道は繋がってく&lt;br /&gt;
未来が僕に悲しみを運んでも&lt;br /&gt;
僕が歌う限り夢は溢れてくる&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
</description> 
      <link>http://takshoset2.blog.shinobi.jp/%E6%9C%88%E3%81%A8%E5%90%9B/%E6%9C%88%E3%81%A8%E5%90%9B%E3%83%BB%E3%83%BB%E3%83%BB%E7%AC%AC3%E8%A9%B1</link> 
    </item>
    <item>
      <title>月と君・・・第2話</title>
      <description>２、8月6日。晴れ時々雨&amp;hellip;。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
君とはあれから何度か逢って話をした。といっても、パターンは同じだ。&lt;br /&gt;
僕が歌う、彼女がくる、歌い終わる、話す&amp;hellip;の繰り返し。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕が路上へ出るのは週２日。&lt;br /&gt;
そのうち、金曜の午後は彼女を待ち、歌うことが多くなった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
今日も彼女を待っていたんだけれど、ついに夕暮れ時まで現れなかった。&lt;br /&gt;
仕方がないので、僕は渋々、歌を歌いはじめた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
君が来ないことでやる気は半減。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
何曲歌ったか忘れてしまったころ&amp;hellip;&lt;br /&gt;
目の前に黒いスーツ姿・年齢にして40後半くらいの真面目そうな男が立った。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕を見て、近くへ寄ってくる。真剣な顔つきをしていた。&lt;br /&gt;
いつもからんでくる酔っ払いではないことは明らかだった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「雄二くん&amp;hellip;だね？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「あ、はい&amp;hellip;そうですけど&amp;hellip;何か？&amp;hellip;」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕は怖かった&amp;hellip;今までの路上活動では向けられたことのない&lt;br /&gt;
暖かくもあり悲しくもあるその目に僕は吸い寄せられていた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「樋口利雄、早苗の父です。はじめまして」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「あ、どうも&amp;hellip;はじめまして&amp;hellip;」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「最近、早苗が良く君の歌を聞きに行くのだと&lt;br /&gt;
嬉しそうに話していてね、今日は私が来てみた。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「ああ、そうでしたか、ありがとうございます。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
なんだかそれ以上の言葉が出てこなかった。&lt;br /&gt;
彼女だけでなく、親子でなく、父だけが今日、僕の目の前に。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
そんな優し悲しい顔をして立っているのか。&lt;br /&gt;
僕は怖くて聞けなかった。目も合わせられなかった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「ちょっと向こうで座って話せるかな？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&amp;lsquo;早苗のお父さん&amp;rsquo;は以前のスポットに近い、公園のベンチを指して言った。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「ええ、いいですよ、そろそろ休憩しようと思っていたので」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕は平然を装ってそう答えた。&lt;br /&gt;
ベンチに座ってすぐに話は本題に入った。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕の運命がカラカラと音を立て&lt;br /&gt;
僕の想像できないスピードで早まっていくのを感じた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「早苗は今、入院している&amp;hellip;。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「え？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
あんなに綺麗で優しい彼女が入院&amp;hellip;？訳が分からなかった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
こんなに暑いのに長袖なのか？と聞いても&lt;br /&gt;
「肌が弱いから、日焼け対策なの」とただ笑っていた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
そこらへんを歩く子となんら違いは感じなかった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
感じさせなかったのか？そうなのか？&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕は訳がわからない顔で&amp;lsquo;早苗のお父さん&amp;rsquo;を見上げた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「あの子について、少し話してもいいかな？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「はい、お願いします&amp;hellip;」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「あの子は生まれつき、心臓が弱くてね&amp;hellip;。&lt;br /&gt;
でも小学校の頃までは、ほかの子変わらす学校に行っていたんだ。&lt;br /&gt;
でもある日、音楽の授業で歌を歌っていてね。&lt;br /&gt;
そこで歌の途中で苦しくなって倒れた。&lt;br /&gt;
それ以来、あの子は歌を怖がった。鼻歌を口ずさむこともなくなった。&lt;br /&gt;
あの子は歌が大好きだったのに、その歌が歌えないことで&lt;br /&gt;
心を徐々に閉ざしていった。口数も少なくなっていったんだ。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「でも&amp;hellip;、でも、あんなに元気に明るく、ここにきてたじゃないですか」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「君にはとても感謝している。あの子は高校に行っていなくてね。&lt;br /&gt;
私が行かせなかったんだ。&lt;br /&gt;
これ以上、あの子から歌以外のものまで奪ってしまうのではないかと思ってね。&lt;br /&gt;
でもそれは逆効果だった。&lt;br /&gt;
あの子は友達も出来ず、外にでることも諦めてしまった。&lt;br /&gt;
病状は安定したよ。でもそれでは生きているといえるのか？&lt;br /&gt;
私は答えが出せないでいた。&lt;br /&gt;
でもある時から、早苗は変わり始めた。&lt;br /&gt;
君が窓の外で、この公園の街灯の下で歌うようになってからだ。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
指を指した先には、こげ茶色の瓦の家が一件見えた。あそこが彼女の家らしい。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「夜になると早苗はいつもあの部屋のベランダで君を見ていた。&lt;br /&gt;
あの距離だ、歌はちゃんと聞こえなかっただろうけど&lt;br /&gt;
そのギターの音くらいはしっかり聞けたんじゃないかな？&lt;br /&gt;
実際、今日聞いて思ったよ、いい音をしている。&lt;br /&gt;
私も昔、ちょっと弾いていたことがあってね。&lt;br /&gt;
よく早苗と一緒に歌った。多分、それを覚えていたんだろう」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
お爺のギターは偉大だった。&lt;br /&gt;
僕は感謝半分、嫉妬半分に重く閉ざした口をリハビリでもするかのごとく&lt;br /&gt;
ゆっくりと開いて話した。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「じいちゃんの使ってたギターなんです。&lt;br /&gt;
いつ作られたか、とか知らないんですけど&lt;br /&gt;
この音が彼女に元気を与えていたのなら&lt;br /&gt;
じいちゃんに感謝しないといけないですね」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「いや、そのギターだけじゃないんだ、早苗が元気になったのは。&lt;br /&gt;
一番効いたのは君の歌だよ。&lt;br /&gt;
早苗はしばらくすると、君のギターに合わせて鼻歌を歌うようになった。&lt;br /&gt;
あの早苗が、あの子が歌を歌っている&amp;hellip;。&lt;br /&gt;
それだけで奇跡を見た気分だった。&lt;br /&gt;
でもそれだけで止まらなかった。&lt;br /&gt;
あの子は自分から外へ出たいと言った。そして君に会いにいった。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
そうか&amp;hellip;あの日、あの場所だったから、彼女は僕に近づけた。&lt;br /&gt;
そして僕は君に忘れられない歌を、一夜をプレゼントしたんだ。&lt;br /&gt;
意図せず僕はそうして、君は意図してそうしたのか？自分の身体に鞭打って&amp;hellip;。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「今、どうしてるんですか？彼女は&amp;hellip;。助かるんですか？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
聞くことは怖かった&amp;hellip;けど、聞かずにはいられなかった&amp;hellip;。&lt;br /&gt;
ほんの数秒だったけど、僕はいいシュミレーションを何度も何度も繰り返した&amp;hellip;。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「今は安静にしていれば大丈夫&amp;hellip;。でも先はわからない。&lt;br /&gt;
心臓の筋力が生まれつき弱くてね。&lt;br /&gt;
体が大きくなるにつれて年齢を重ねるにつれて、心臓に負担が掛かっていく。&lt;br /&gt;
そういう病気だから&amp;hellip;覚悟はしているつもり&amp;hellip;なんだ&amp;hellip;。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「そうですか&amp;hellip;、今日&amp;hellip;&amp;hellip;いえ&amp;hellip;&amp;hellip;明日&amp;hellip;会えますか？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
出来れば今日、今すぐに会いにいきたかった。&lt;br /&gt;
正直、彼女と出会ってからの路上活動は今までになく力強く、優しく&lt;br /&gt;
希望に溢れたものだったから&amp;hellip;。&lt;br /&gt;
もう彼女なしでは僕の歌は存在し得ない。&lt;br /&gt;
僕の歌は彼女の為に&amp;hellip;そう&amp;hellip;早苗の為にあることを今、確信した。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「来てくれるか&amp;hellip;&amp;hellip;早苗も喜ぶよ。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
かすれた声だった。嬉しさと悲しさを胸一杯に込め、それを押さえつけた声だ。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「じゃあ、明日、午後に『はじめ総合病院』302号室、来てくれるかな？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「はい、わかりました、必ず行きます」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「じゃあ、また明日。」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
後姿を見送って、僕は太陽の光を全身に受けた月を見上げた&amp;hellip;。&lt;br /&gt;
大きく手が届きそうな月&amp;hellip;。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
君と見た月が大きくその口を開けて&lt;br /&gt;
僕だけでなく君の魂やすべてを飲み込んでしまいそうで怖かった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
明日&amp;hellip;君に会って話そう&amp;hellip;これからのこと、未来のこと。一杯話そう&amp;hellip;。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
小粒の雨が降り始めたのは、それからかなりの時間が経ってからだ。&lt;br /&gt;
僕は歌うことも出来ず、帰ることも出来ず、空を見上げていた。&lt;br /&gt;
月はいつしか雲に覆われていた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
真夏の夜を&amp;hellip;火照った真夏の夜の行き場のない感覚を&lt;br /&gt;
冷ますかのように&amp;hellip;しとしとと&amp;hellip;つらつらと降る雨。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
あの日、どうやって家まで帰ったのかは記憶していないんだ。&lt;br /&gt;
あの日の雨は覚えているのに&amp;hellip;。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
</description> 
      <link>http://takshoset2.blog.shinobi.jp/%E6%9C%88%E3%81%A8%E5%90%9B/%E6%9C%88%E3%81%A8%E5%90%9B%E3%83%BB%E3%83%BB%E3%83%BB%E7%AC%AC2%E8%A9%B1</link> 
    </item>
    <item>
      <title>月と君…第1話</title>
      <description>１、７月10日、晴れ。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
今年、一番の暑さだった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
まぁ、次の日には更新されてしまったけど&lt;br /&gt;
僕はこの日の暑さと熱を忘れないだろう&amp;hellip;。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
それは君に出会った、というだけではなく&lt;br /&gt;
その出会いが僕の歌を&amp;hellip;言葉を&amp;hellip;これほど変化させたから。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕の歌の殆どは穏やかな歌。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
だから人通りの多い道や車の多い道、ましてや高架下なんかじゃ絶対に歌えない。&lt;br /&gt;
路上でのポイント選びはいつも中心街から少し外れた道。&lt;br /&gt;
人通りもまばらな夕方から始まる。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
ポイントは約２年の路上活動でかなり心得ていて&lt;br /&gt;
この曜日はここ、みたいに固定されていたけど&lt;br /&gt;
最近はなんとなく新しい場所で歌ってみたくなっていたから&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
もともと歌う予定にしていた公園の側の街灯の下を抜けて&lt;br /&gt;
もう少し遠くのコンビニ付近でスポットを探す。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
昔流行ったラーメン屋の跡地、前には自販機もあり、すぐ側には商店街がある。&lt;br /&gt;
ここなら不自由しないだろう、と&lt;br /&gt;
ここ2年の路上活動史上、初スポットでのライブが始まった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
いつものギター、いつものジーンズ&lt;br /&gt;
ニット帽、明るめのサングラスをかけ&lt;br /&gt;
僕の単独ゲリラライブが始まった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
いつものような感覚で数曲歌い終え、そろそろ日が沈む頃合い。&lt;br /&gt;
やはりここらは人通りも少なくて、立ち止まってくれる人は一人も居なかった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「さて&amp;hellip;ちょっと一服&amp;hellip;」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕はいつものように街が夜になるまで待ち、また歌うつもりで&lt;br /&gt;
ギターを置いてコーヒーを自販機へ買いに行こうとした。その時だった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「優しい歌ですね、これ&amp;hellip;よかったらどうぞ」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「えっ、ああ、ありがとうございます&amp;hellip;」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
缶コーヒーを差し出したのは同世代？の女の子で&lt;br /&gt;
夏に似つかわしくない露出度の低い白い長袖のワンピースを着ていた。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
今まで差し入れなんてされたことはほとんどなく&lt;br /&gt;
そのすべてが友人か酔っ払いのサラリーマンから&lt;br /&gt;
強引な曲のリクエスト付きの差し入れだったから&amp;hellip;。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「いつもはもっと向こうで歌ってますよね？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「ええ、知ってるんですか？でも&amp;hellip;」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
彼女は僕を知っているようだったけど、僕は彼女を知らない。&lt;br /&gt;
なぜだろう？彼女にはもっと前に会っていて&lt;br /&gt;
今、再会したような印象を受けた。&lt;br /&gt;
極度の人見知りな僕に&lt;br /&gt;
君はすっとその懐に入りこむように缶を差し出したのだと気付く。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「さすがに声は聞こえないですけど、見るだけなら見えますから」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「ここら辺に住んでるの？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
初対面の人と自然と話せることは滅多にない。僕は少し嬉しかった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「ええ、ここからすぐのところに」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「&amp;hellip;雄二です。よろしく」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「え？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「名前&amp;hellip;なんていうの？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「あ、ああ、早苗です。はじめまして」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕はちょっとドキドキした。&lt;br /&gt;
その子の綺麗な黒髪が風に揺れて、とてもいい石鹸の香りがした。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「今日はとても暑いですね」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
君の声、そしてその混ざりっ気のない白い肌が夕日に透けて&lt;br /&gt;
僕は君のすべてに見惚れていた&amp;hellip;。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
命の輝きってやつはあの夕焼けと、あの月と、君に似て儚く切なく暖かいもの。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
それにもっと早く気付けたら、もっと大切に思えたら&lt;br /&gt;
人は笑顔でこの世を去れるだろう&amp;hellip;、去れるのだろうか&amp;hellip;？&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「さて、そろそろ続きを&amp;hellip;どんな曲が聞きたい？」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
とにかくこれ以上、恥ずかしくて話ができなくなった。&lt;br /&gt;
人見知りの虫がとうとう僕を突いてきたようだった。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「じゃあ&amp;hellip;、夏の暑い夜をちょっと優しく包んでくれるようなやつがあったら」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
「ああ、じゃあ、あの曲を&amp;hellip;」&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
僕の頭は真っ白だった。君のワンピースの色とほぼ同じ白だった。&lt;br /&gt;
あの時、なんとか「出来上がった歌」は今ではとても大切な歌になったよ。&lt;br /&gt;
今は辛くて歌えないけど&amp;hellip;いつか、君に向かって歌えるといいね。&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
　　　　月と君&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
波の音が心を静め&lt;br /&gt;
君の背中を素直に見つめていられる&lt;br /&gt;
ああ、このまま足を止めてしまえば&amp;hellip;&lt;br /&gt;
君は僕の足音を感じながら歩いていく&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
大袈裟な言葉なんて要らなくて&lt;br /&gt;
ただここに二人で居る浮遊感&lt;br /&gt;
まだまだ抱きしめていたい&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
よせてはかえす波に揺れる月は優しいスポットライト&lt;br /&gt;
引き返す道はやけに短くて「もっと長けりゃいいのに」なんて思って&lt;br /&gt;
「月が綺麗」と君は言い「君が綺麗」と僕は思って&amp;hellip;&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
波の音はいつしか消えて&lt;br /&gt;
君のしぐさに世界に飲み込まれる&lt;br /&gt;
ああ、このまま浮かんでこなければ&lt;br /&gt;
僕は君の空間を独り占めできるのに&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
大袈裟な未来なんて要らなくて&lt;br /&gt;
ただここに二人で居る幸福感&lt;br /&gt;
まだまだ包まれていたい&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
よせてはかえす波に揺れる月は優しい風を運び&lt;br /&gt;
掻き揚げる髪に舞う香り「時が止まればいいのに」なんて思って&lt;br /&gt;
「月が綺麗」と君は言い「君は綺麗」だと僕が言い&lt;br /&gt;
「星が綺麗」と君は言い「君は素敵」だって僕は思い&lt;br /&gt;
君を抱きしめた&lt;br /&gt;
&lt;br /&gt;
</description> 
      <link>http://takshoset2.blog.shinobi.jp/%E6%9C%88%E3%81%A8%E5%90%9B/%E6%9C%88%E3%81%A8%E5%90%9B%E2%80%A6%E7%AC%AC1%E8%A9%B1</link> 
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