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剛蔵の空想履歴、創作小説の部屋へようこそ!!リンクはフリーです。
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1、7月10日、晴れ。


今年、一番の暑さだった。

まぁ、次の日には更新されてしまったけど
僕はこの日の暑さと熱を忘れないだろう…。

それは君に出会った、というだけではなく
その出会いが僕の歌を…言葉を…これほど変化させたから。

僕の歌の殆どは穏やかな歌。

だから人通りの多い道や車の多い道、ましてや高架下なんかじゃ絶対に歌えない。
路上でのポイント選びはいつも中心街から少し外れた道。
人通りもまばらな夕方から始まる。


ポイントは約2年の路上活動でかなり心得ていて
この曜日はここ、みたいに固定されていたけど
最近はなんとなく新しい場所で歌ってみたくなっていたから

もともと歌う予定にしていた公園の側の街灯の下を抜けて
もう少し遠くのコンビニ付近でスポットを探す。


昔流行ったラーメン屋の跡地、前には自販機もあり、すぐ側には商店街がある。
ここなら不自由しないだろう、と
ここ2年の路上活動史上、初スポットでのライブが始まった。


いつものギター、いつものジーンズ
ニット帽、明るめのサングラスをかけ
僕の単独ゲリラライブが始まった。

いつものような感覚で数曲歌い終え、そろそろ日が沈む頃合い。
やはりここらは人通りも少なくて、立ち止まってくれる人は一人も居なかった。


「さて…ちょっと一服…」


僕はいつものように街が夜になるまで待ち、また歌うつもりで
ギターを置いてコーヒーを自販機へ買いに行こうとした。その時だった。


「優しい歌ですね、これ…よかったらどうぞ」


「えっ、ああ、ありがとうございます…」

缶コーヒーを差し出したのは同世代?の女の子で
夏に似つかわしくない露出度の低い白い長袖のワンピースを着ていた。

今まで差し入れなんてされたことはほとんどなく
そのすべてが友人か酔っ払いのサラリーマンから
強引な曲のリクエスト付きの差し入れだったから…。


「いつもはもっと向こうで歌ってますよね?」

「ええ、知ってるんですか?でも…」


彼女は僕を知っているようだったけど、僕は彼女を知らない。
なぜだろう?彼女にはもっと前に会っていて
今、再会したような印象を受けた。
極度の人見知りな僕に
君はすっとその懐に入りこむように缶を差し出したのだと気付く。


「さすがに声は聞こえないですけど、見るだけなら見えますから」

「ここら辺に住んでるの?」


初対面の人と自然と話せることは滅多にない。僕は少し嬉しかった。


「ええ、ここからすぐのところに」

「…雄二です。よろしく」

「え?」

「名前…なんていうの?」

「あ、ああ、早苗です。はじめまして」


僕はちょっとドキドキした。
その子の綺麗な黒髪が風に揺れて、とてもいい石鹸の香りがした。


「今日はとても暑いですね」


君の声、そしてその混ざりっ気のない白い肌が夕日に透けて
僕は君のすべてに見惚れていた…。



命の輝きってやつはあの夕焼けと、あの月と、君に似て儚く切なく暖かいもの。


それにもっと早く気付けたら、もっと大切に思えたら
人は笑顔でこの世を去れるだろう…、去れるのだろうか…?


「さて、そろそろ続きを…どんな曲が聞きたい?」


とにかくこれ以上、恥ずかしくて話ができなくなった。
人見知りの虫がとうとう僕を突いてきたようだった。


「じゃあ…、夏の暑い夜をちょっと優しく包んでくれるようなやつがあったら」

「ああ、じゃあ、あの曲を…」


僕の頭は真っ白だった。君のワンピースの色とほぼ同じ白だった。
あの時、なんとか「出来上がった歌」は今ではとても大切な歌になったよ。
今は辛くて歌えないけど…いつか、君に向かって歌えるといいね。




    月と君

波の音が心を静め
君の背中を素直に見つめていられる
ああ、このまま足を止めてしまえば…
君は僕の足音を感じながら歩いていく

大袈裟な言葉なんて要らなくて
ただここに二人で居る浮遊感
まだまだ抱きしめていたい

よせてはかえす波に揺れる月は優しいスポットライト
引き返す道はやけに短くて「もっと長けりゃいいのに」なんて思って
「月が綺麗」と君は言い「君が綺麗」と僕は思って…

波の音はいつしか消えて
君のしぐさに世界に飲み込まれる
ああ、このまま浮かんでこなければ
僕は君の空間を独り占めできるのに

大袈裟な未来なんて要らなくて
ただここに二人で居る幸福感
まだまだ包まれていたい

よせてはかえす波に揺れる月は優しい風を運び
掻き揚げる髪に舞う香り「時が止まればいいのに」なんて思って
「月が綺麗」と君は言い「君は綺麗」だと僕が言い
「星が綺麗」と君は言い「君は素敵」だって僕は思い
君を抱きしめた

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第1弾…月と君~完結~
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