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剛蔵の空想履歴、創作小説の部屋へようこそ!!リンクはフリーです。
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5、10月10日、晴れ時々雨。


空は秋雨前線を掻い潜り晴れ渡る。
そしてその夜はこの世のすべてを包むように
月がその暗闇を照らし、安心と高揚をもたらす。そのはずだった。

その日は月イチ恒例の家族会議…という名の外食だった。

行った店はいつもと違う洋食屋さんだった。
ちいさな頃、3世代で行ったらしいことは父から聞いていたが
僕には始めての場所にしか思えなかった。
なぜか今日は母さんの体調が悪いということで親子二人での食事になった。

ひと通り食事を終えた。僕は気になっていることがあった。
父はいつもと違い、落ち着きがないのだ。
食事中もなんだか上の空な感じで僕の話を聞きそびれる場面が何度もあった。


「父さん。何かあったの?なんだか落ち着かないみたいだ。」

「今日はお前に話がある…大事な話だ。」


父は真剣そのものだった。今までに見たことのない顔をして僕を見ていた。


「何なの?改まって…」

「まぁ、聞きなさい。早苗さんのことだ。」


僕は心が定まらなかった。父や母には話していない
早苗の話がなぜ…なぜ父から出るのか、僕にはわからなかった。


「なんで知ってるの?なんで…?」

「お前が何をしているかなんてのはな、親子ならなんとなくわかるもんなんだよ。
それに早苗さんのご両親から連絡を頂いた。」


僕から口止めをしたわけでもなく
ここ1ヶ月以上もの間、病院に出入りしていれば
どこから話がもれていってもおかしくはなかった。
おじいちゃんの件もある。でも両親は関係ないし、それに意味を感じていなかった。


「父さんや母さんには話す必要がないと思ったから。」

「冷静に聞いて欲しい。
早苗さんのご両親からもう会わないでくれと伝言を頼まれた。昨日の事だ。」


目の前が色を失っていくようだった。
なぜ?どうして?あんなに喜んでいたのに。
なぜ?どうして…それを何度も繰り返した…納得いかない、意味がわからない。


「なんで!?何か嫌われるようなことでもした?なんか迷惑でもかけた?」

「だから冷静に聞けと言っている。
父さんが責任を持って、一言一句間違えずに伝えるからよく聞け。
それを言い出したのは、早苗さんだ。よく聞け…いいな。」



『これ以上、近くに居て私を忘れられなくなったら
私は雄二の人生の足かせになってしまう。
雄二は私ひとりの為じゃなく、もっと沢山の人の為に歌うべき。
もうこれ以上、未来のない私に付き合ってはいけない。』



「そんなの勝手だよ…。僕は本気なんだ!父さん!僕は本気なのに…」

「わかっている。お前が冗談半分でこんなことをするはずがないことは
父さんや母さんが一番知っている。
…それでだ、父さんもこんな話は受け入れたくなかった。
だから。実は早苗さんのご両親と話しあって、ひとつ提案があった。
これは大事な話だ。お前にほんの少しでも迷いがあったのなら
父さんはこれ以上話さない。聞きたいか?」


僕に迷いはなかった。僕の心の中の景色は、今日の空のように雲ひとつなく、早苗だけがそこにいた。


「聞かせて、父さん。僕は聞きたい。」

「じゃあ、言うぞ。早苗さんがどれだけ嫌がっても
お前は毎日、早苗さんに会いにいけ。
嫌いと言われても会いに行け。
そして、これは父さんからの提案だ。早苗さんと婚約をしろ。
そして…最後を……彼女の命の証人になってやれ…いいな?」

「…わかったよ。父さん、僕は早苗に嫌われたって、最期まで愛してみせる。」


その後、父さんは始めてと言っていいくらい、僕に愛や恋について熱く語った。

そして店を出た。外は雨が降っていた。


雨は大粒のにわか雨。
雨雲の隙間から照る月は煌々と僕らを照らし、何かを語っているようだった。

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第1弾…月と君~完結~
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