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6、11月7日、雨。
あの日から、僕は言われた通り、誓った通り
毎日早苗に会いに行った。バイトも辞めた。
彼女は最初嫌がったけど、徐々に「言っても無駄だ」と思ったらしく
前と同じかそれ以上に僕に沢山、話をするようになった。
僕は婚約の証に指輪をプレゼントした。
と言ってもサラリーマンの給料、3ヶ月分
みたいな凄いやつではなく、僕が高校を卒業した時から愛用していたものだった。
婚約した証をその手にしてくれたのは、11月に入ってからだったけど
捨てずに持っていてくれたことに僕は内心ほっとした。
そして、その指輪のサイズが僕の小指=早苗の薬指だったことも嬉しかった。
僕は幸せだった。
タイムリミットの確実に存在する幸せであることに気付いていれば
もっといい一日を過ごせたかも知れない。
「あのね…あの車椅子のおじいさん、知ってる?」
僕は早苗に聞いてみた。早苗は何か知っているかもしれない。
「さぁ、いつも昼前になると渡り廊下から
あの桜の木を見てるってことくらいかな?」
「そうなんだ…あのおじいさん
僕らのこと知ってるみたいなんだ。すごく昔から。」
「ふ~ん、そう?…私は知らないなぁ」
早苗は興味なさそうに、そっぽを向いた。
僕は早苗の態度が気になった。
早苗の仕草をこの1ヶ月、丁寧に見てきた成果だった。
いつも早苗は聞かれたくないことに話しがいくと話の途中でそっぽを向く。
しかし、それがわかったとしても、それ以上、問い詰めることは出来ない。
なぜなら彼女は僕以上に頑固で芯が強く
そうと決めたらどうやってもそうする性格らしい。
「そうか…知らないんだ。じゃあ、しょうがないね。」
芯ある性格というやつには負ける。僕はこれ以上の追及を断念した。
「今日はやけに素直じゃない?」
「そう?いつもと同じだと思うけど?」
「そうかな~、知りたい!知りたくてしょうがない!って、顔に書いてあるよ。」
「でも、知らないんでしょ?じゃあ、仕方ないじゃない」
僕もそこそこ頑固らしい。
「それもそうね…」
早苗はそう言って少し複雑な表情をした。
僕は頭の中で…気になることリストの上位に
車椅子のおじいさん…
と書き込んでおいた。
「やあ、雄二くん、おはよう。早苗もおはよう。調子はどう?」
早苗のおとうさんが仕事の休み時間を使ってやってきた。
「お父さん?順番が違うんじゃない?
早苗→雄二でしょ?さ・な・え→ゆ・う・じ。」
早苗は指を交互に指してお父さんにお説教を始めた。
「まあまあ、いいじゃん、順番なんてさ。」
僕はとりあえず割って入った。これがいつものパターンだった。
早苗のお父さんはお父さんなりに空気を察してやっていること
というのが僕にはわかっていたから。
「何いってんの?私が病人で、お父さんはお見舞いに来てるのよ?
私が先でないとおかしいじゃない。
今度来る時は雄二をベッドに寝かせてみようっと。」
早苗はいつものように、お説教を止めるつもりはない
と言わんばかりに捲くし立てた。
「ごめん、ごめん。でも来客は大事にしないと、ね。調子はどう?」
「…今ので興奮して…ちょっと…息ぐ…る…しい…じゃない…の…。」
「…早苗?…大丈夫?」
僕はどうしていいかわからなくなった。
目の前が真っ白になっていく感覚を必死で堪えて早苗の手を握った。
「早く!お医者さんを!!」
早苗のお父さんがナースコールを押してくれた。
僕は何も出来ずにただ、早苗の手を握っていた。
早苗に呼吸器が付けられ、病室に戻ってくるまで、半日が経った。
僕にとっては半日どころの騒ぎではなく、一日、二日くらいの遠い時間に思えた。
いつ握っていた早苗の手を離したのか、僕には記憶がない。
僕自身も気を失っていたようだった。
「早苗…大丈夫…早苗はまだ生きてるよ…大丈夫だ」
僕は精一杯の声を掛けた。「大丈夫?」とは聞けなかった。
それは彼女を苦しめる言葉だ。
彼女を縛ってしまう言葉を僕は必死に頭の中でリスト化していった。
「うん…」
呼吸器越しに早苗の声が聞こえた。
僕はその声を忘れないように全神経を集中した。
早苗の唇の動き、目の動き、鼓動、手のひらの温もり
髪の匂い全てを僕は刻むように僕は早苗を見つめた。
「後は私達に任せて、君も少し休みなさい。少し休めば彼女も元気になるから、ね。」
医師の誘導で僕は渋々、病室を出た。
早苗の両親は外で泣いていた。
早苗に気付かれないように外で泣いていた。
とうとう先が、終着駅が見えてきてしまった、と。
そういって泣いているように僕には見えた。
僕はそのまま、病棟の外へ出た。
外はすでに暗くなり、冬の寒さを感じるまでになっていた。
ちょっと前まで夏だった季節は移ろいで、早くも冬が訪れる。
「もう後はないぞ…」
そう呟くように見えた冬空に浮かぶ月は
僕の未来を照らしてはくれそうになかった。
あの日から、僕は言われた通り、誓った通り
毎日早苗に会いに行った。バイトも辞めた。
彼女は最初嫌がったけど、徐々に「言っても無駄だ」と思ったらしく
前と同じかそれ以上に僕に沢山、話をするようになった。
僕は婚約の証に指輪をプレゼントした。
と言ってもサラリーマンの給料、3ヶ月分
みたいな凄いやつではなく、僕が高校を卒業した時から愛用していたものだった。
婚約した証をその手にしてくれたのは、11月に入ってからだったけど
捨てずに持っていてくれたことに僕は内心ほっとした。
そして、その指輪のサイズが僕の小指=早苗の薬指だったことも嬉しかった。
僕は幸せだった。
タイムリミットの確実に存在する幸せであることに気付いていれば
もっといい一日を過ごせたかも知れない。
「あのね…あの車椅子のおじいさん、知ってる?」
僕は早苗に聞いてみた。早苗は何か知っているかもしれない。
「さぁ、いつも昼前になると渡り廊下から
あの桜の木を見てるってことくらいかな?」
「そうなんだ…あのおじいさん
僕らのこと知ってるみたいなんだ。すごく昔から。」
「ふ~ん、そう?…私は知らないなぁ」
早苗は興味なさそうに、そっぽを向いた。
僕は早苗の態度が気になった。
早苗の仕草をこの1ヶ月、丁寧に見てきた成果だった。
いつも早苗は聞かれたくないことに話しがいくと話の途中でそっぽを向く。
しかし、それがわかったとしても、それ以上、問い詰めることは出来ない。
なぜなら彼女は僕以上に頑固で芯が強く
そうと決めたらどうやってもそうする性格らしい。
「そうか…知らないんだ。じゃあ、しょうがないね。」
芯ある性格というやつには負ける。僕はこれ以上の追及を断念した。
「今日はやけに素直じゃない?」
「そう?いつもと同じだと思うけど?」
「そうかな~、知りたい!知りたくてしょうがない!って、顔に書いてあるよ。」
「でも、知らないんでしょ?じゃあ、仕方ないじゃない」
僕もそこそこ頑固らしい。
「それもそうね…」
早苗はそう言って少し複雑な表情をした。
僕は頭の中で…気になることリストの上位に
車椅子のおじいさん…
と書き込んでおいた。
「やあ、雄二くん、おはよう。早苗もおはよう。調子はどう?」
早苗のおとうさんが仕事の休み時間を使ってやってきた。
「お父さん?順番が違うんじゃない?
早苗→雄二でしょ?さ・な・え→ゆ・う・じ。」
早苗は指を交互に指してお父さんにお説教を始めた。
「まあまあ、いいじゃん、順番なんてさ。」
僕はとりあえず割って入った。これがいつものパターンだった。
早苗のお父さんはお父さんなりに空気を察してやっていること
というのが僕にはわかっていたから。
「何いってんの?私が病人で、お父さんはお見舞いに来てるのよ?
私が先でないとおかしいじゃない。
今度来る時は雄二をベッドに寝かせてみようっと。」
早苗はいつものように、お説教を止めるつもりはない
と言わんばかりに捲くし立てた。
「ごめん、ごめん。でも来客は大事にしないと、ね。調子はどう?」
「…今ので興奮して…ちょっと…息ぐ…る…しい…じゃない…の…。」
「…早苗?…大丈夫?」
僕はどうしていいかわからなくなった。
目の前が真っ白になっていく感覚を必死で堪えて早苗の手を握った。
「早く!お医者さんを!!」
早苗のお父さんがナースコールを押してくれた。
僕は何も出来ずにただ、早苗の手を握っていた。
早苗に呼吸器が付けられ、病室に戻ってくるまで、半日が経った。
僕にとっては半日どころの騒ぎではなく、一日、二日くらいの遠い時間に思えた。
いつ握っていた早苗の手を離したのか、僕には記憶がない。
僕自身も気を失っていたようだった。
「早苗…大丈夫…早苗はまだ生きてるよ…大丈夫だ」
僕は精一杯の声を掛けた。「大丈夫?」とは聞けなかった。
それは彼女を苦しめる言葉だ。
彼女を縛ってしまう言葉を僕は必死に頭の中でリスト化していった。
「うん…」
呼吸器越しに早苗の声が聞こえた。
僕はその声を忘れないように全神経を集中した。
早苗の唇の動き、目の動き、鼓動、手のひらの温もり
髪の匂い全てを僕は刻むように僕は早苗を見つめた。
「後は私達に任せて、君も少し休みなさい。少し休めば彼女も元気になるから、ね。」
医師の誘導で僕は渋々、病室を出た。
早苗の両親は外で泣いていた。
早苗に気付かれないように外で泣いていた。
とうとう先が、終着駅が見えてきてしまった、と。
そういって泣いているように僕には見えた。
僕はそのまま、病棟の外へ出た。
外はすでに暗くなり、冬の寒さを感じるまでになっていた。
ちょっと前まで夏だった季節は移ろいで、早くも冬が訪れる。
「もう後はないぞ…」
そう呟くように見えた冬空に浮かぶ月は
僕の未来を照らしてはくれそうになかった。
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