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3、8月7日、晴れ。
言葉というものは時として人を縛ってしまう。
しかし言葉というものは時として自分を思い出すきっかけになるもの。
僕は自分の語った言葉に責任が持てるのだろうか?
あの日の約束は今も僕の中で生きていて
君を…そして僕を…縛って離すことをしない。
はじめ総合病院は隣町、駅から徒歩10分のところにある。
近隣では一番大きな病院だ。
早苗は個室になんとか入れたようだが
ロビーや廊下は外来患者も多く、人の多さが僕の心を少し紛らわせた。
懐かしい…?何だろう…?この感覚は…
デジャヴというやつは何度となく感じるけど
すべて錯覚で、すぐに忘れ去ってしまうものだけど
今回のはそれと違う空気感を僕に与え、何かを思い出せと訴えているように思えた。
…それより早苗だ…と不思議な感覚を意識の外に、僕は病室の扉をノックした。
「どうぞ。」
甲高い女性の声がした。彼女ではない、勿論、昨日会ったお父さんでもない声だ。
「失礼します。」
「…ああ、お父さんから伺ってます。早苗の母です。雄二くんよね?
ごめんなさいね、今、診察に行ってるんだけど、少し遅れてて。」
早苗に似て…というのは失礼だけど、よく似ている。
早苗のしなやかな雰囲気は母親譲り、といったところだ。
「はじめまして、梶原雄二です。」
病室には作りかけの千羽鶴、お決まりの果物
夏の昼下がりの陽気に照らされた小さな向日葵が花瓶で首を垂れていた。
……まただ…何か見覚えがある…でも…思い出せない?何なんだ?この感覚は…。
作りかけ…?僕はそれを凝視してしまった…。
「可笑しいでしょう?あの子、自分で作ってるの、千羽鶴。
個室は暇だって。大部屋ならお友達が出来たかもしれないのにって言ってね。」
「ああ、そうだったんですか、彼女らしい…ですね。自分で作っちゃうなんて」
少しの影が見えた…。深く悲しい心の影…。少し涙ぐんでいるようにも見えた。
「元気に振舞っているように見えて、実は怖いんだと思うの…。
明日なんてないかもしれない…今、何かやっておかないと不安なんだと思うの…。」
「そうですよね…今日が、今が彼女のすべて…ですもんね。」
僕はわかったような口をきいた。
それが産みの親にとって、どれだけ辛く悲しく怖いものかなんて
対して理解していなかったというのに…。
「そろそろ帰ってくると思うわ。雄二くん、少し留守番頼める?」
「え?ああ、いいですよ、今日は出来るだけ長く居るつもりですから。
バイトも休んできました。」
「そうだったの…じゃあ、少しお願いね。」
「はい、わかりました。」
少しほっとした気分だった。
今、彼女がどういった状態なのか?
それを聞いてしまってから会うのと、そうでないのとでは
感覚も話し方も今までとまったく同じ、とはいかない。
すでに同じように話す自信は僕にはなかったし、できれば今まで通り
ここが病室であること以外は路上のまま、彼女と接したかった。
外を見た…。
中庭の草木は夏の暑さにも負けず、悠々とその存在感を示し
そして周りで同じく床に伏せる人々を励ましているのだろう。
僕もあの太陽の下、輝くように、彼女に勇気を与えなくては…。
「…やっぱり…来ちゃったんだ…」
そんな僕の思いを、その一言がさらっていく。
彼女は点滴を片手にゆっくりと病室に入ってきて、僕にそう言った。
「うん、昨日、お父さんから聞いたよ。身体、大丈夫?」
駄目だ…これじゃあ駄目だ…こんな会話を用意していたんじゃない…。
彼女を勇気付ける為に、今日、ここに来たのに、これじゃあ駄目だ。
「うん、見ての通り大丈夫だけど、点滴は外しちゃ駄目みたい。
診察室って結構遠いの。ちょっと疲れちゃった…。」
と、早苗はいつもと同じ、といった顔をしてベッドに腰掛けた。
……少しの沈黙……
いつもと違う場所での再会に、お互い何を話していいものか、悩んでいたのだろう。
同時に外を見た。僕は外の何を見ていればいいのかわからず
ただ夏の暑さを隔てる一枚のガラスに反射する自分を見つめていた。
あの時、向こうに彼女は何を見たのだろうか?
悠々と色づく草木や一番大きく輝いていた葉桜だったのだろうか?
それとも反射する僕の暗い顔だったのだろうか?
そして何を思ったのだろうか…。
「がっかりした?こんな病弱な女の子で…。正直、がっかりしたでしょ?」
「そんなことないよ、もっと早く話してくれれば良かったのに。そうすれば…」
「いつものようにあそこで歌ってくれた?
それとも私の家の前で、部屋で歌ってくれた?
あなたは優しいから、『家に帰れ!』って言ったと思うよ、きっと。」
「ああ、考えたと思うし、多分、そう言ったと思う。
生きていれば、どうにでもなる。生きていればね。」
「…私は怖かったの…あなたが歌うことをやめて
私のところに来るのが怖かったの…。
病気は私から歌や沢山のものを奪った。
歌うこと、走ること、外でいろんなものを見ること、感じること。
友達、将来の夢、恋愛。すべて奪っていった。
奪われる辛さを知っている私が……今度は私があなたの歌を奪うの…。
あなたの優しい歌を奪ってしまう。
そんなの…そんなの、耐えられるわけないじゃない…。」
考えていたことだった。
早苗の為に歌うのか、それとも歌を捨て
早苗とずっと一緒にいるのか、僕は今、ここで答えが出た気がした。
君の為に歌うんだ。それが今、君だけでなく
僕にも必要なものなのだと、そう思ったんだ。
「大丈夫…、これからはここで君の為に、何度でも歌ってあげる。
道具は少し揃えないといけないけどね。まぁ、任せといて。」
僕はここで固まった決心を口にした。
「君が好きだ。
今、世界で一番、早苗が好きだ、大切なんだ。
だからそうさせて…ね?」
早苗の瞳から、小さなシズクが垂れ下がった。
暖かさと悲しさと切なさと…そして喜びの詰まった涙。
僕の瞳からは、今までの早苗の葛藤を祝福する涙。
二人の涙が重なって、あの歌が生まれて
そしてまた別の涙があの歌を高い頂に押し上げていく。
僕は早苗の真っ白な手を握り
お母さんが帰ってくるまで、二人で絶え間なく泣いた。
それが偽善なのか、愛なのか。僕は分からぬままに。
でも…それを信じるほか無かったんだ…。
君を想う
今、願うこと 君を想うこと
夢、儚いけど 君を想うこと
空は光を増し 夢は影を増し
そこで愛を語る 無償の愛を語る
重ねた両手は想いも重ねて
未来を重ねて僕を君を涙で包んだ
未来が僕に絶望を告げても
僕が歌う限り道は繋がってく
未来が僕に悲しみを運んでも
僕が歌う限り夢は溢れてくる
君が泣いたあの日に
僕が泣いたあの日に
はじけて混ざった未来は
いつでもいつまでも色褪せない
未来が僕に絶望を告げても
僕が歌う限り道は繋がってく
未来が僕に悲しみを運んでも
僕が歌う限り夢は溢れてくる
言葉というものは時として人を縛ってしまう。
しかし言葉というものは時として自分を思い出すきっかけになるもの。
僕は自分の語った言葉に責任が持てるのだろうか?
あの日の約束は今も僕の中で生きていて
君を…そして僕を…縛って離すことをしない。
はじめ総合病院は隣町、駅から徒歩10分のところにある。
近隣では一番大きな病院だ。
早苗は個室になんとか入れたようだが
ロビーや廊下は外来患者も多く、人の多さが僕の心を少し紛らわせた。
懐かしい…?何だろう…?この感覚は…
デジャヴというやつは何度となく感じるけど
すべて錯覚で、すぐに忘れ去ってしまうものだけど
今回のはそれと違う空気感を僕に与え、何かを思い出せと訴えているように思えた。
…それより早苗だ…と不思議な感覚を意識の外に、僕は病室の扉をノックした。
「どうぞ。」
甲高い女性の声がした。彼女ではない、勿論、昨日会ったお父さんでもない声だ。
「失礼します。」
「…ああ、お父さんから伺ってます。早苗の母です。雄二くんよね?
ごめんなさいね、今、診察に行ってるんだけど、少し遅れてて。」
早苗に似て…というのは失礼だけど、よく似ている。
早苗のしなやかな雰囲気は母親譲り、といったところだ。
「はじめまして、梶原雄二です。」
病室には作りかけの千羽鶴、お決まりの果物
夏の昼下がりの陽気に照らされた小さな向日葵が花瓶で首を垂れていた。
……まただ…何か見覚えがある…でも…思い出せない?何なんだ?この感覚は…。
作りかけ…?僕はそれを凝視してしまった…。
「可笑しいでしょう?あの子、自分で作ってるの、千羽鶴。
個室は暇だって。大部屋ならお友達が出来たかもしれないのにって言ってね。」
「ああ、そうだったんですか、彼女らしい…ですね。自分で作っちゃうなんて」
少しの影が見えた…。深く悲しい心の影…。少し涙ぐんでいるようにも見えた。
「元気に振舞っているように見えて、実は怖いんだと思うの…。
明日なんてないかもしれない…今、何かやっておかないと不安なんだと思うの…。」
「そうですよね…今日が、今が彼女のすべて…ですもんね。」
僕はわかったような口をきいた。
それが産みの親にとって、どれだけ辛く悲しく怖いものかなんて
対して理解していなかったというのに…。
「そろそろ帰ってくると思うわ。雄二くん、少し留守番頼める?」
「え?ああ、いいですよ、今日は出来るだけ長く居るつもりですから。
バイトも休んできました。」
「そうだったの…じゃあ、少しお願いね。」
「はい、わかりました。」
少しほっとした気分だった。
今、彼女がどういった状態なのか?
それを聞いてしまってから会うのと、そうでないのとでは
感覚も話し方も今までとまったく同じ、とはいかない。
すでに同じように話す自信は僕にはなかったし、できれば今まで通り
ここが病室であること以外は路上のまま、彼女と接したかった。
外を見た…。
中庭の草木は夏の暑さにも負けず、悠々とその存在感を示し
そして周りで同じく床に伏せる人々を励ましているのだろう。
僕もあの太陽の下、輝くように、彼女に勇気を与えなくては…。
「…やっぱり…来ちゃったんだ…」
そんな僕の思いを、その一言がさらっていく。
彼女は点滴を片手にゆっくりと病室に入ってきて、僕にそう言った。
「うん、昨日、お父さんから聞いたよ。身体、大丈夫?」
駄目だ…これじゃあ駄目だ…こんな会話を用意していたんじゃない…。
彼女を勇気付ける為に、今日、ここに来たのに、これじゃあ駄目だ。
「うん、見ての通り大丈夫だけど、点滴は外しちゃ駄目みたい。
診察室って結構遠いの。ちょっと疲れちゃった…。」
と、早苗はいつもと同じ、といった顔をしてベッドに腰掛けた。
……少しの沈黙……
いつもと違う場所での再会に、お互い何を話していいものか、悩んでいたのだろう。
同時に外を見た。僕は外の何を見ていればいいのかわからず
ただ夏の暑さを隔てる一枚のガラスに反射する自分を見つめていた。
あの時、向こうに彼女は何を見たのだろうか?
悠々と色づく草木や一番大きく輝いていた葉桜だったのだろうか?
それとも反射する僕の暗い顔だったのだろうか?
そして何を思ったのだろうか…。
「がっかりした?こんな病弱な女の子で…。正直、がっかりしたでしょ?」
「そんなことないよ、もっと早く話してくれれば良かったのに。そうすれば…」
「いつものようにあそこで歌ってくれた?
それとも私の家の前で、部屋で歌ってくれた?
あなたは優しいから、『家に帰れ!』って言ったと思うよ、きっと。」
「ああ、考えたと思うし、多分、そう言ったと思う。
生きていれば、どうにでもなる。生きていればね。」
「…私は怖かったの…あなたが歌うことをやめて
私のところに来るのが怖かったの…。
病気は私から歌や沢山のものを奪った。
歌うこと、走ること、外でいろんなものを見ること、感じること。
友達、将来の夢、恋愛。すべて奪っていった。
奪われる辛さを知っている私が……今度は私があなたの歌を奪うの…。
あなたの優しい歌を奪ってしまう。
そんなの…そんなの、耐えられるわけないじゃない…。」
考えていたことだった。
早苗の為に歌うのか、それとも歌を捨て
早苗とずっと一緒にいるのか、僕は今、ここで答えが出た気がした。
君の為に歌うんだ。それが今、君だけでなく
僕にも必要なものなのだと、そう思ったんだ。
「大丈夫…、これからはここで君の為に、何度でも歌ってあげる。
道具は少し揃えないといけないけどね。まぁ、任せといて。」
僕はここで固まった決心を口にした。
「君が好きだ。
今、世界で一番、早苗が好きだ、大切なんだ。
だからそうさせて…ね?」
早苗の瞳から、小さなシズクが垂れ下がった。
暖かさと悲しさと切なさと…そして喜びの詰まった涙。
僕の瞳からは、今までの早苗の葛藤を祝福する涙。
二人の涙が重なって、あの歌が生まれて
そしてまた別の涙があの歌を高い頂に押し上げていく。
僕は早苗の真っ白な手を握り
お母さんが帰ってくるまで、二人で絶え間なく泣いた。
それが偽善なのか、愛なのか。僕は分からぬままに。
でも…それを信じるほか無かったんだ…。
君を想う
今、願うこと 君を想うこと
夢、儚いけど 君を想うこと
空は光を増し 夢は影を増し
そこで愛を語る 無償の愛を語る
重ねた両手は想いも重ねて
未来を重ねて僕を君を涙で包んだ
未来が僕に絶望を告げても
僕が歌う限り道は繋がってく
未来が僕に悲しみを運んでも
僕が歌う限り夢は溢れてくる
君が泣いたあの日に
僕が泣いたあの日に
はじけて混ざった未来は
いつでもいつまでも色褪せない
未来が僕に絶望を告げても
僕が歌う限り道は繋がってく
未来が僕に悲しみを運んでも
僕が歌う限り夢は溢れてくる
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